2007年12月07日
中国茶評論家・工藤佳治
――星5つをつけるなら、宜興の紅茶
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中国を源流にした「茶」。現在、世界で一番多く生産され、飲まれているお茶の種類は「紅茶」である。
紅茶といえば、「ダージリン」などを中心にしたインドの紅茶を思い出す人がほとんどだろう。じつは、紅茶のルーツも中国である。「武夷岩茶」で有名な福建省武夷山市の中心地から、40分ほど車で山道を上った山奥の小さな集落「桐木(関)」である。
「祁門紅茶」「正山小種」。漢字で書くとわかりにくいが、「祁門紅茶」は、「キーモン」あるいは「キーマン」「キームン」の名で、世界三大紅茶の一つ(他にインドの「ダージリン」、スリランカの「ウバ」)になっている。安徽省の紅茶である。イギリスのアフタヌーンティで貴族に好んで飲まれ、今でも飲み続けられている「ラプサンスーチョン」は、漢字で書くと「正山小種」。紅茶誕生の地・桐木で作られるお茶である。
その他、古くからお茶が産する全ての地域において、紅茶は作られてきた。四川省の「川紅」、湖南省の「湖紅」あるいは「湘紅」、湖北省の「宜紅」、江西省の「寧紅」、浙江省の「九曲紅梅」、広東省の「英徳紅茶」、福建省の「坦洋工夫」「政和工夫」「白琳工夫」、そして雲南省の「●紅」(テンコウ)など。
共通して、甘い香り、美しい水色、口中にいつまでも残る上品な旨みが特徴である。砂糖、ミルクが邪魔で、そのままストレートで飲むのに適している。
そのようなおいしい中国紅茶が、年を追うごとに消えていっている。
理由は簡単。中国紅茶が飲まれなくなっている、買われなくなっているからだ。しぜん、生産されなくなってきている。
コーヒーなどの他の飲み物が、普及してきている。紅茶でいえば、スーパーなどの売り場を見ると、売られている紅茶の中心は「リプトン・ティーバック」が圧倒的な面積をとっている。ペットボトル入りの日本の紅茶ブランドも健闘している。
そして、アフリカなどを含めて、今まで生産されなかった世界の地域で紅茶が生産され始めたことも影響している。
アメリカ独立戦争の発端となったボストン茶会事件のお茶は、中国産の紅茶であっただろう。世界史にも影響を与えた中国紅茶は、海外で販売が相変わらず好調な「祁門紅茶」「正山小種」などを除いて、「ただ消えゆくのみ」といった様子である。
少し寂しい気がする。「祁門」や「正山」を超えて私にはおいしいと感じる紅茶が沢山あるのに残念だ。
そんな中で、ここ数年「●紅」が日本の中国茶ファンの中でも人気を得ている。甘い後味が特徴だ。中国紅茶では、一番後発で開発された紅茶である。1930年代終わりに開発されたお茶だが、実際に評価が高まるのは1950年代も後半である。
中国紅茶の中で、今一番おいしい紅茶は何か、と質問されたら、迷いなく「宜興紅茶」と答える。江蘇省宜興の紅茶だ。銘茶ではないし、お茶の紹介にも載ってこない紅茶だ。宜興は、茶壺(急須)で有名な焼き物の町である。唐代には三大貢茶(献上茶)の一つであり、今は「陽羨雪芽」の名で作られている緑茶の名産地でありながら、街中だけは紅茶が常飲されている。レストランでも、訪問先でも出されるのは紅茶だ。質が高い。安い。なによりも、上品は後味の甘さが魅力である。星5つだ。
次回は、「最近茶館でのいちおしお茶うけはこれ」(予定)です。
※●はサンズイに眞
中国茶メモ
宜興紅茶(ぎこうこうちゃ・江蘇省)
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正式名称は、これが正しいのかわからない。でも、この呼び名で宜興では通じる。銘茶でもなく、どの本にも載っていない。宜興だけで売られているお茶で、地元のお茶舗では必ず売っている。 「金毫」と呼ばれる芽の完全発酵した状態の茶葉(ヨーロッパ紅茶の世界では「ゴールデンチップ」といわれる)が、多く混じるものほどおいしい。あるいは、わかりにくければ一番高い値段のものを買うのがよい。それでも他の紅茶よりも一般的に安い。
心地よい少しスモーキーは香り、後味の甘さはしつこくなく、さらっと上品に口中に長く残る。

